【映画レビュー】『リトル・マーメイド』

ディズニーレポート

――“外の世界”を夢見るふたりの少女、アリエルとアースラ

こんにちは、Kotonoです。
1989 年の公開から 30 年以上が過ぎても、『リトル・マーメイド』はプリンセス映画の定番として、そして東京ディズニーシーの「マーメイドラグーン」を彩る原典として愛され続けています。

今回は、声の仕事を志していた私の視点で キャラクターの内面を徹底的に掘り下げ、アリエルとアースラを “表と裏のヒロイン” として読み直してみました。


1. 作品データと位置づけ

  • 公開年 1989 年(日本は 1991 年)
  • 監督 ロン・クレメンツ&ジョン・マスカー
  • 音楽 アラン・メンケン/ハワード・アッシュマン
  • 受賞 アカデミー賞 作曲賞・歌曲賞(“Under the Sea”)
  • ディズニー史上の意味
    “ディズニー・ルネサンス”の幕開け作。
  • 6大プリンセスの中では4番目、比較的新しい世代に当たります。

東京ディズニーシーの「マーメイドラグーン」はこの映画世界を丸ごと建物化した全天候エリア。

映画を観返してから行くと、貝殻のモチーフやトリトンの像に「あのシーンの!」と膝を打てるのでおすすめです。


2. アリエル――“外へ飛び出す”新時代の女の子

アリエルは、従来の“受け身プリンセス”像をひっくり返す存在でした。
好奇心に火がつくと父トリトン王の制止も無視し、沈没船に潜り込み、フォーク(ダイングルホッパー!)を宝物のように集める。
恋の相手エリック王子さえ、“外の世界”への憧れを加速させる燃料にすぎません。

思春期特有の「まだ見ぬ世界を知りたい」衝動が物語のエンジン。
だから彼女の決断は、反抗心からだけではなく“純粋な感動”の延長線にある。

その衝動が「声を差し出す契約」という危険な賭けに走らせます。
アリエルにとって声はアイデンティティそのもの。
しかし彼女は、それすら手放しても自分の “外” を掴みに行くのです。これはとても能動的で、1980年代末に提示された “新しい女の子像” と言えるでしょう。


3. アースラ――海の底に堕ちた、もうひとりのアリエル

一方、海の魔女アースラ。彼女はどこで魔女になったのか、なぜ陸の生活に詳しいのか――映画は一切説明しません。けれど

  • 人間のフォークやナプキンの用法を即答する
  • “契約書”という人間世界の法概念を持ち込む
  • 「かつて宮廷にいたが追放された」と独白する

これらのヒントをつなげると、「外の世界」を学び過ぎたがゆえに排斥されたアリエルの未来像が浮かび上がってきます。

恵まれなかったアリエルの鏡像

  • アリエルの好奇心 → アースラでは“知識と野心”へ
  • アリエルの歌声 → アースラでは“他者の声を奪う魔法”へ
  • アリエルの父への反発 → アースラでは“王への復讐”へ

もしアリエルが陸から拒絶され、海でも理解されず、孤独と屈辱に飲み込まれたら――彼女はアースラになっていたかもしれません。
そう考えるとアースラの“慈悲深い契約”は皮肉というより 同族嫌悪の実験。自分と同じ過ちを犯すか、それとも乗り越えられるか――アリエルに試練を課しているとも読めるのです。

さらに興味深いのは、アースラの部下フロットサムとジェットサムが驚くほど有能な点。ディズニーのヴィランズ脇役はポンコツが定番なのに、彼らは計画遂行に抜かりがない。これは 「努力家だが報われない上司」を強調するための対比装置にも感じられます。


4. トリトン王――守る者の恐れと横暴

トリトン王は海の秩序を守る絶対的権力者。
けれど陸を怖れるあまり、娘の才能と自由を締めつけてしまいます。厳しさと愛情は紙一重。彼が最後にアリエルを人間へ変えるのは、“恐れを越える愛”か、それとも“失う恐怖からの自己保身”か。複雑さこそが父親キャラの奥行きです。
トリトンが変化を受け入れた瞬間、この物語はハッピーエンドへ転じ、同時に アースラという悲劇 のトリガーが引かれたとも言えます。


5. エリック王子――海に憧れる“陸のアリエル”

エリックは海風を愛し、嵐の夜には部下と船を守ろうと飛び込む行動派。
陸で生まれながら海にロマンを抱く点で、アリエルと鏡合わせです。
しかも嵐で命を救われた記憶を「歌声」で追う粘り強さまで持つ優等生キャラ。ディズニー王子の中でも人格が整い過ぎていて、逆に異色。
彼がいるからこそ物語は“外の世界を尊重し合う対等な恋”に着地します。


6. まとめ――“声”を失った先に、世界は二つに分かれる

アリエルとアースラは 外の世界を渇望した同一線上の存在

  • 受容と愛を得た者は歌い続け、
  • 理解されず押し潰された者は他者の声を奪う魔女になる。

ハッピーエンドの裏にそんな二重構造を感じると、陽気なカリプソもどこか切なく、アースラの高笑いも痛ましく響いてきます。
ディズニー・シーのマーメイドラグーンでアリエルの楽しいコンサートを観るとき、ふと 「海の奥底で叶わなかったもう一つの夢」 に思いを馳せる――そんな味わい方もアリではないでしょうか。

次回はヴィランズが不憫系なのに、部下がポンコツ街道まっしぐらな『ヘラクレス』、あるいは海繋がりで『モアナ』か……迷い中です。お楽しみに!


タイトルとURLをコピーしました