「ボイスサンプルって、結局なにが正解なの?」
「原稿は揃ったけど、このまま録って本当に大丈夫?」
そんなふうにモヤモヤしている声優志望さんに向けて、
今日は“元声優志望・現コンサル”の私が、自分のボイスサンプル収録で大失敗した話と、二度目で立て直した具体的なプロセスを書いてみようと思います。
サンプル原稿をまとめた記事も大事なんですが、
そもそも「その原稿をどう“自分のもの”にするか」が分からないと、作品としてのボイスサンプルって仕上がりづらいんですよね。
「正解に合わせにいった」結果、全部がフラットになった1回目
私が初めてスタジオでボイスサンプルを録ったのは、まだ養成所に通っていた頃です。
- ちゃんとした原稿を用意して
- レッスンでも何度も練習して
- 先生にもチェックをもらって
準備だけ見ると「まあまあ真面目にやってる人」だったと思います。
……が、出来上がった音源を聴いた先生の第一声が、
「体裁は整っているけど、あなたが誰だかわからない」 でした。
そのときの私の頭の中は、こんな感じ。
- 「オーディション担当に嫌われない無難な原稿にしなきゃ」
- 「声質も演技も“平均点”は取りたい」
- 「変にクセを出して“使いづらい”と思われたくない」
つまり、“正解っぽいもの”に合わせにいくことばかり考えていたんです。
その結果どうなったか。
- ナレーションは「キレイに読もう」としすぎて、個性が薄い
- セリフはキャラクターの違いが弱くて、似てしまう
- 全体として、「器用だけど印象が残りづらい人」になってしまった
テクニック的には大崩れしていないのに、心に残らないサンプル。
これは結構ショックでした。
「レッスンだと褒められるのに、収録だと微妙」なギャップの正体
当時、レッスンではそこそこ褒められていたんです。
- 「そのキャラの方向性は合ってるよ」
- 「ナレーション、聞きやすいね」
でも、スタジオ収録になると、その褒められていた部分がうまく出てこない。
自分なりに分析してみると、原因はこの3つでした。
- 「レッスン用の声」と「売り込むための声」が頭の中で分かれていた
- “その場で指示をもらえる前提”でしか演じてこなかった
- 自分の強みを、本人が言語化できていなかった
レッスンでは、先生が
「もっとこういう方向で」
「その言い方、今の感じいいね」
と、その場でナビゲーションしてくれますよね。
でも、ボイスサンプルは「自分でディレクションした成果物」。
誰も「この原稿はそのキャラより、こっちのキャラの方が合うよ」と言い直してくれません。
つまり私は、
「ディレクション込みで褒められていた自分」
に気づかず、
自分で作品をディレクションする力を鍛えていなかったんです。
二度目の収録前にやってよかった3つのこと
1回目のサンプルを先生にボロクソ(愛のあるやつ)にフィードバックされてから、
二度目の収録までにやったことは、この3つです。
① 自分の「声のキャラ」を、言葉で定義し直した
まずやったのは、自分の声の印象を徹底的に言語化することでした。
- 自分で思う「自分の声のイメージ」
- 友人や講師に言われたこと
- 養成所のクラス分けや、よく回ってくる役の傾向
これらを全部書き出して、
- 透明感がある/柔らかい/落ち着いている/賢そうな声が似合う
- 10代後半〜20代前半の女の子がハマる
- 等身大・素直・まっすぐ、が似合う
…みたいなキーワードを整理しました。
そのうえで、
「この声でいちばん勝負しやすいジャンルはどこか?」
「“まずはここを売りにする”と決めるなら、どんな役か?」
を決めていきました。
この作業をしたことで、
「なんでもできます」ではなく「まずはここで勝負したいです」
という軸が、自分の中に一本通った感覚がありました。
② 原稿を「良い子風」から「私仕様」に書き換えた
1回目の原稿は、今思えばすべてが“教科書的に良い子”でした。
かつ、それがそこそこ上手くできてしまっていました。
- バラエティ → ちょっとテンション高めの明るい読み
- ドキュメンタリー → 落ち着いたトーンで淡々と
- 企業VP → 丁寧で知的なイメージ
どれも「お手本としては正しい」けれど、
「私じゃなきゃダメな理由」がなかったんです。
そこで二度目に向けては、
- 「自分の声のキャラ」に合わない原稿は削る
- 言い回しを、自分が日常で使う言葉寄りに変える
- キャラクター台本も、「私が“本当に好きな役柄”」を増やす
という調整をしました。
たとえば企業VP風ナレーションでも、
「最先端のテクノロジーで世界を変えていく――。」
よりも、
「まだ誰も見たことのない未来を、私たちは本気で形にしようとしています。」
のように、少しだけ“熱”を足してもいい会社をイメージして書き換えてみたり。
「正解っぽい無難さ」よりも、
自分の声と価値観にしっくり来る文章を優先するようにしました。
③ 本番を想定した“通し練習”を録音し、冷静に採点した
もう一つ大きかったのが、通し練習の録音→自分で採点です。
1回目は、
- セリフAだけ何度も練習
- セリフBだけ何度も練習
- …という“単品練習”が中心
だったのですが、実際の収録は、
「ナレーション → セリフ1 → セリフ2 → CM調 → フリートーク」
のように流れで録っていきます。
そこで二度目は、本番と同じ順番で
- 録音ボタンを押したら、最後まで止めずに通す
- その音源を、一晩置いてから冷静に聴き直す
- 「ここはキャラが被っている」「ここはテンション落ちすぎ」など、赤入れする
…という“セルフディレクションタイム”を作りました。
この作業で、
- 思ったより声色の差がついていない
- 3本目あたりで急に元気がなくなる
- フリートークになると急に素が出すぎる(笑)
など、自分のクセがだいぶ見えるようになりました。
収録当日に意識してよかった2つのポイント
二度目のスタジオ収録では、メンタル面で意識したことが2つあります。
① 「うまく読もう」より「誰にどう届けるか」を考える
1回目は、とにかく
「噛まないように」
「ブレスを目立たせないように」
「先生に言われたアクセントを守らなきゃ」
と、“減点されないようにする意識”が強すぎました。
二度目は、録る前に必ず
「このナレーションは、どんな人に何を伝えたいのか」
「このセリフの子は、今どんな気持ちで誰に向かって話しているのか」
を、1行メモにしてからマイク前に立ちました。
- うまく読めたかどうか
よりも - ちゃんと届いたかどうか
にフォーカスを移したことで、
演技の揺れを“味”として許せるようになった感覚があります。
② エンジニアさん・ディレクターさんを「怖い人」じゃなくて「味方」にする
これも、地味だけど大事なポイントでした。
1回目は、エンジニアさんは
「プロの現場の人」=「評価する人」=「怖い人」
と思ってしまい、ガチガチに。
二度目は、
- 最初の挨拶を自分からしっかりする
- 「緊張しているので、ゆっくりめにいきます」と正直に伝える
- 迷ったときは「テンション、今ので大丈夫そうですか?」と率直に聞く
と決めて臨みました。
すると、
「じゃあもう少しだけ元気めでいってみようか」
「今の、最後の語尾だけもう一テイクいこう」
と、すごく具体的な指示をもらえるようになりました。
エンジニアさんやディレクターさんは、
**「あなたの一番いい状態を引き出したい人」**です。
こちらから素直に相談した方が、
結果的にクオリティも上がるし、学びも増えるな…と実感しました。
経験して分かった、“ボイスサンプルの一番の目的”
二度の収録を通じて、私が一番強く感じたのは、
ボイスサンプルの目的は、
「うまい人です」と証明することじゃなく、
「この人はこういう声・こういう役が得意なんだ」と
具体的にイメージしてもらうこと
だ、ということでした。
だからこそ、
- 正解に寄せるより、「自分の声で勝ちやすい領域」を決める
- 教科書っぽい原稿より、「自分仕様」に言葉を調整する
- 一発勝負に賭けるより、セルフディレクションの練習を積む
この3つが、すごく大事になってきます。
これからボイスサンプルを録るあなたへ
もし今、
- 「原稿だけ集めて満足してしまっている」
- 「スタジオを予約したけど、まだ不安が大きい」
- 「自分の強みが分からないまま録ろうとしている」
そんな状態だったら、
ぜひこの記事で紹介したどれか一つだけでも、真似してみてください。
- 自分の声のキャラを言葉にしてみる
- 原稿を“私仕様”に少しだけ書き換えてみる
- 通し練習を録音して、翌日に赤入れしてみる
どれも、すごく地味なんですが、
二度目の収録で「これなら人に聴かれても大丈夫」と思えたのは、この積み重ねのおかげでした。
今後は、この記事で触れた
- 「声のキャラの言語化の仕方」
- 「原稿を自分仕様にする書き換えのコツ」
なんかも、別記事で少しずつ深掘りしていこうと思っています。
あなたの一枚のボイスサンプルが、
誰かの「この声、好きだな」を引き出せますように。
